ウィリアム・モリスのデザイン哲学 – 理想を追い求めた時の旅人
この度スタートしたデザイン連載、「佐藤昭太の教養としてのデザイン史」では、
弊社アートディレクターの佐藤が、"デザインに関わる人が知っておきたい歴史"をお伝えしていきます。
第1回目のテーマは、モダンデザインの父:ウィリアム・モリス。今日のデザインの考え方を作った人物です。
今回は、彼の生涯と後世に与えた影響について詳しく探っていきましょう。
YouTubeもぜひご覧くださいませ。
目次
ウィリアム・モリス:理想を追い求めた時の旅人
ウィリアム・モリスは、19世紀に活躍したデザイナーであり、芸術家、詩人、思想家としても知られています。
モリスを一言で表すならば、「理想を追い求めた時の旅人」です。
彼は、機械による大量生産がはじまった時代においても、忘れ去られた手仕事の美しさと品質を重視し、真の美しさを追求しました。
その哲学は、後の世代のデザインにも大きな影響を与え、現代のデザインの基礎を築きました。
彼がいなければ、今日の「デザイン」という概念は存在しなかった、と言っても過言ではないでしょう。
産業革命と大量生産
モリスが活躍した19世紀は、産業革命によって社会が大きく変化していた時代です。
工場が次々と建設され、機械による大量生産が進む中、製品の価格は下がり、誰でも物を手に入れやすくなりました。
しかしその代償として、製品の品質や美しさが犠牲になりました。
当時のロンドン万博で展示された家具の例↓
色々な様式が無計画にごちゃまぜになった形状で、とても調和が取れているとは言えない代物です。
モリスは「醜いもの」が大量生産されていく状況に、深く憂いを感じていました。
デザインの2つの側面:スタイリングとコンセプト
モリスは、生活空間をつくる壁紙や、美しい家具のデザインを手がけました。
デザインという言葉を聞くと、一般的には視覚的な美しさに目が行きがちです。
しかし、彼は単に美しさを追求するだけでなく、生産の前にしっかりと計画を立てる「コンセプト」を重要視しました。
デザインは「スタイリング」(視覚的な美しさ)と「コンセプト」(計画性)の2つの側面を兼ね備えているべきだ、という思想はモリスから生まれたものなのです。
なによりも彼は、美しいデザインが生活の水準を上げると信じており、空間のデザインに注力しました。
グラフィックデザインへの影響
モリスの影響は、グラフィックデザインの分野にも及んでいます。
彼はタイポグラフィ(文字デザイン)や書籍のデザインに深い関心を持ち、彼が設立したケルムスコット・プレスでは、緻密な文字デザインと美しいページレイアウトが特徴的な書籍を作り上げました。
これによって書籍デザインの新たな基準が確立され、その影響は現代のグラフィックデザインに受け継がれています。
デザイン教育への影響:ENSAD
フランスのデザイン教育機関「国立高等装飾美術学校(ENSAD)」では、デザインをスタイリングとコンセプトの両方の側面から教え、美しさと計画性を重視した教育を行っています。
モリスの哲学が、現代のデザイン教育においても重要な役割を果たしていることが伺えます。
後の世代への影響:バウハウス
モリスの影響は彼の生涯だけにとどまらず、後の世代のデザイン運動にも大きな影響を与えました。
たとえば、バウハウスのデザイナーたちは、モリスが提唱した「美しいものは人々の生活を豊かにする」という理念を受け継ぎ、機械による大量生産の中でも、デザインの美しさと計画性を追求しました。
現代に受け継がれる思想:Apple
現代においても、モリスのデザイン哲学を継承していると言える企業が多く存在します。
例えばAppleも、日常生活で使える美しいデザインを作り出し、多くの人々の生活を豊かにしています。
現代に受け継がれる思想:IKEA
IKEAの家具は手頃な価格でありながら、デザイン性を両立しています。
モリスによる、美しいものが生活を豊かにするという哲学のひとつの継承の形ではないでしょうか。
モリスが抱いていた矛盾と、現代のデザイン
モリスはひとつの矛盾を抱えていました。
それは、多くの人々の日常を豊かにしようとした一方で、美しいものを作ろうとすると、価格の高い職人の手仕事にならざるを得なかったことです。
しかし、バウハウスを経て機械生産に美しいデザインが反映され、
現在ではAppleやIKEAのような企業の存在によって、多くの人が美しいものを生活の中に取り入れやすくなりました。
もしかすると、モリスの抱えていた矛盾が解決したといえるかもしれませんね。
まとめ
モリスは過去への回帰を目指しながらも、未来へと繋がるデザインの先駆者となりました。彼の理想を追いかける旅は、現代の私たちの生活にも光をもたらしています。
ウィリアム・モリスの物語は、理想を追い求めることの大切さを教えてくれます。
そして、彼が懸命に追いかけた理想は、今もなお続いており、私たちが美しいデザインとともに生きることの価値を示しているのです。