D2Cブランドのはじめかた — 業界トップランナー、ハヤカワ五味氏、FABRIC TOKYO森氏、TO NINE増田氏・吉岡氏に学ぶイベントに参加しました
こんにちは。アートディレクターの佐藤です。
去る11月14日、『D2C Path「D2Cブランドのはじめかた」』に参加してきました。
貴重なお話ばかりで様々な学びを得られたイベントだったので、みなさんにも共有できればと思います。
目次
D2Cのトップランナーによるセッション内容
イベントは、国内のD2C事例として先駆的な取り組みをされている下記のみなさんによるパネルディスカッションがメインでした。
株式会社FABRIC TOKYO 森 雄一郎氏
オーダーメイドスーツなどを扱うD2Cブランド「FABRIC TOKYO」の代表で、今年9月に新ブランド「STAMP」を立ち上げられました。
無人店舗で行う超高精度の3Dスキャンによる採寸で、カスタムオーダーデニムを注文できます。
全く新しいユーザー体験、ファッションブランドとしての洗練された世界観など他の追従を許さないブランド構築をされながら、旧態依然とした業界をディスラプトして急成長を実現されています。
株式会社TO NINE 増田智士氏
株式会社TO NINE・株式会社二重 吉岡芳明氏
サイズの概念をなくすオーダーシャツ「KEI」などの自社ブランドを展開しながら、D2Cブランドの支援を行う「TO NINE」の共同代表をされています。結婚式のあり方を問い直し、シンプルな結婚式を提案するD2Cブランド「iwaigami(イワイガミ)」を展開する株式会社二重をスマイルズ、KIGIなどとの共同出資で立ち上げられています。
自社ブランドを展開しながら、そのノウハウをクライアントワークに還元するサイクルを構築されている点が素敵で、D2Cブランドの豊富な支援実績をお持ちです。
ゲストスピーカー:
株式会社ウツワ ハヤカワ五味氏
課題解決型アパレルブランドを運営する「株式会社ウツワ」の代表をされています。
サイズで悩める女性向けランジェリーブランド「feast」、ワンピースブランド「Double Chaca」などさまざまなアパレルブランドを立ち上げられてきており、インフルエンサーとしても著名です。今年新たに、生理用品に関する新サービス「illuminate」をローンチされました。
既存の価値観をリフレーミングし、深い共感を集めるブランド作りによってZ世代を中心に大きな影響を与えられています。
D2Cは、目の前のお客さまを幸せにできるビジネスのかたち
パネルディスカッションでは、実際にD2Cブランドを立ち上げて成長を実現し、今まさに最前線を走っている方々の現場感のあるお話が聞けました。
表面的な内容ではなく、実体験に基づく具体的なお話ばかりで勉強になりました。
ブランドの作り方
ブランドの作り方については、最初はとにかく絞り込むことが大切というお話。また「なぜそれをやるのか」という必然性が求められるということでした。
- 特長を尖らせることが大切。後から広げることはできるが、後から尖らせるのは難しい。
- ひとつのカテゴリーに特化してプレゼンスを作る方が、取り組みやすい。
- ひとつの商品をていねいに作らないと、満足を届けられない。
- 「ブレない(一貫したアイデンティティがあり嘘偽りがない)」、「必然性(その人がこの時代にそれをやる意味がある)」、「本質主義」 が成功のための条件。
顧客の声の集め方
D2Cブランドは顧客の声を直接聞くことを重視しています。どのように顧客の声を集めているかについて、以下のようなアプローチが紹介されました。
- SNSで、どういったユーザーペインがあるかリサーチする。
- ターゲットがいる場所に行き、今何を使っているか、なぜそれを選んだか、何がきっかけなら切り替えられるかなどをリサーチする。
- 実地で会うのは20人ほど。さらに街頭インタビューも。
- 商材によっては、本音を聞くために対面インタビューやアンケートよりも、TwitterやLINEオープンチャットなどの匿名が有効なケースもある。
- 本人がペルソナである商材ならば、自分基準で企画しても良い。インタビューは、その検証として行うと良い。
- リサーチ対象として、友達は良い(友達の場合、どういう人かがよくわかってるので)。
立ち上げ時の資金
これについては千差万別で、ハヤカワ五味さんのように学生時代に30万円で始めたというケースから、1000万円前後のケース、FABRIC TOKYOさんのように累計20億円超を資金調達されてきたケースなどが紹介されました。
年商数億円で安定か、3桁億円の成長を目指すかでやり方は違うということで、後者の場合には資金調達が有効なのではというお話でした。
工場の探し方、付き合い方
みなさん、最初はタウンページを見て片っ端から電話をかけたりされたようですが、商工会議所を利用するなどのコツもあるそうです。
また、代替わりがあった工場ではデジタルネイティブ世代も増えており、これまでのやり方を変えたいと思っている工場があるというお話が印象的でした。
- 各地域の商工会議所に行き、こういうものを作りたいと相談すると工場のリストをくれる。
- 工場との取引は与信が大事で、実は商社を挟んだ方が安いこともある。
- 初期はベタづきで工場に行ってものづくりの現場に関わった。
- 工場で、どこをコストカットできるか提案もする。小分けの配送をやめるなど、当たり前のことができてなかったりする。
オフラインの重要性
オフライン(リアル店舗)については、ショールームとしての機能、そしてファン作りの場としての機能というお話がありました。
- オフラインがあることで、顧客獲得コストが下がる。特に高単価の商材は、サイトを見るだけでなくリアルにものを見てから購買に至る。最初のハードルが高いので、オフラインがあるほうが顧客を獲得しやすい。
- オフラインがあると、濃いコミュニティができ、ファン作りがしやすい。
- 熱量を可視化できる。そこに何人いるという、既成事実を作れる。
- オフラインでていねいに関係をつくると、リピーターになってくれる。
一方でデータの活用が重要なD2Cブランドにとって、顧客IDの管理は重要事項です。下記のような工夫をされているとのことでした。
- ID管理のため、リアル店舗でも購入はECサイトで買ってくださいと言っている(WiFiを用意している)。
- 顧客チャネルは分けず、最初から一つしか作らないというやり方はおすすめ。
- 一般的に百貨店は中央会計なのでその点は難しい。
リアル店舗を出す時期
- オンラインで誰に刺さるかを検証し、それがわかってからリアル店舗を作るのがおすすめ。
- タイミングは、プロダクトとニーズが合ったときが良い。失敗すると後戻りできないのがリアル店舗でもある。
- 事例では、ローンチの1年〜2年後など。
- 最初はオフィス兼ショールームなどもおすすめ。
ブランド立ち上げ時のKPI
ブランドの立ち上げ時、商品が市場に受け入れられるかを判断する基準は気になるところです。それについては以下のようなアドバイスがありました。
- 顧客満足度を見る。リピートしているか、口コミしているか。それが10人に2〜3人いるなら必要とされてるという判断。
- ただしPMF(プロダクトマーケットフィット)はKPIに落とし込むのは難しい。
- 検証期間は商材特性(どれぐらいの頻度で購入される商材か)による。事例では、3〜6ヶ月や1年など。
- ユーザーが少ない段階は、ものすごく買うコアユーザーからインサイトを得る。
- 多数を見るよりN1(実在する一人の顧客)を見る視点が大切。
まとめ
D2C分野のトップランナーの方々による現場感があるお話ばかりで、非常にわくわくさせられ勉強になるイベントでした。
「なぜそれをやるのか」 という創業メンバーの原体験との結びつきや、生産に至る一連のストーリーに共感が集まるということで、商品の背景にあるコンテンツの発信はブランディングにとってますます重要になっていると思いました。
印象的だったのは「SNSでは企業と個人が同じ並びにあるので、企業アカウントも人のように性格のあるものとして見られる」という言葉。ブランドがどんなキャラクターであるかを、わかりやすく打ち出し、ていねいに伝えていく必要があるのだと感じました。
また余談ですが、ゲストスピーカーのハヤカワ五味さんがなぜあれだけ人気なのか少しわかった気がします : )
・実績があるのにまったく偉ぶらず、失敗談もさらっと話される
・自分の信じるものを作るため、未知の分野かつ誰もやりたがらないことでも積極的に取り組まれている
・時代のちょっと先、トレンドの行方を読む感覚がある
米国や中国ではユニコーン企業も現れ、一方でNikeなどの大企業もD2C戦略に舵を切ったりと昨今注目を集めるD2Cですが、より良いものを追求し作り届けることで目の前のお客さまを幸せにできるビジネスのかたちとして、深い共感を覚えました。今後も、その動向に目が離せません。