【みんなの笑顔をつなぐ、関わり方のデザイン】第4回 優しい未来を感じる、居場所づくり

<前回の続きです。>

クリエイティブ・ディレクター酒井博基さんから学ぶ、「みんなの笑顔をつなぐ、関わり方のデザイン」。最終回の今日は、数千万円という単位のプロジェクトのクリエイティブ・ディレクターとして活躍している酒井さんに、関わる人たちをリードしていく時に大切にしているポイントを教えていただきました。

1. 現場を身体に叩き込む

自分が企画したプロジェクトで、多くの人の上に立つ時に心がけているのは「現場を身体に叩き込むこと」だといいます。

「自分で企画したものが実際の現場でどのように受け取られるのかというのをとても気にしています。なのでプロデューサーなのにイベントが始まると自分でチラシを配ったりすることもあります。

これが受け取ってもらえないと結構ショックを受けます。手に取ってくれた人がどんな属性なのかとか、どうして受け取ってくれなかったんだろうとか、考えるんです。たとえ来場者数が予想を上回り大盛況だっとしても、数字だけを追いかけていると、誰の気持ちに寄り添っているプロジェクトなのかがわからなくなるんです。」

経営や企画だけでなく、現場も体感することで、チューニングする方向性を見失わずにいられるのだそうです。上に立つと、関わる人たち全員の信頼を得ることは難しいように思います。けれども、酒井さんはコンサルタントとしての顔も、クリエイターとしての顔をもちながらも、スタッフの一員としての顔も忘れていないから、関わる人たちの心を掴むことができているのかもしれません。

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2. 仕事時間の30%は、種まきに使う

クリエイティブな仕事をしていくためには、仕事時間の30%は次の種まきをするよう意識しているそうです。

「お金に直接結びつく仕事が70%を超えるとアラートを鳴らし、お金に直接結びつきはしないけれども営業活動のような時間をつくる。知見を増やしていくためにも、次の仕事を作るための種まきとして、余白を残しておく。稼働率が高いのは一見効率が良さそうですが、70%を超えてくるとクリエイティブカンパニーとして新しいチャレンジをしていないんじゃないの、思考が停止しているんじゃないのって思うようにしています。」

目の前の仕事を効率良くこなしていくだけでなく、ちょっと遠い未来を見据えて行動をすること。世の中に新しい価値観を提示したり、人の心を動かすような仕事を生み出していくためには、利益とは直接的には関係のない、「遊び」のような余白となる仕事が必要。

手の届く範囲の仕事だけに必死になっていた私は、肩をぽんと叩かれ、もう少し向こうを眺めてみてごらん、と言われたような気がしました。

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泥臭い部分が最終的には大切

最後に、酒井さんの目に映っているこれからの話を聞かせていただきました。

「これから少子高齢化とか2020年の開発ラッシュが終わったら、世の中が元気がなくなっていって、既存のビジネスがいろいろ淘汰されていくと思う。その中で、ちゃんと生きていけるために、独自価値を提示し続けることが今以上に求められる社会になるんだろうなって。その時に核になる価値ってなんだろう、と。きっと、人のつながりとか居場所とか、一人ひとりと向き合うこととか、煙たい部分が重要なんだと思っていて。

そういうものは、スタートアップみたいにすぐ作れるものではないから、一番根っこにあるものを作っていく、基盤を作り続ける。そういう泥臭い部分をこれからも引き受け続けないといけないって思っています。」

酒井さんの最近のキーワードは「居場所」という言葉だそう。居場所は一人で成立するものなのか、誰かの関わりが必要なんだろうか、などと考えるのが楽しいのだと教えてくれました。「きっと居場所がないって、一番辛いと思う」。まるで誰かの心に寄り添うように、柔らかな声で、酒井さんはそう言います。

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街づくりや居場所づくりの活動というのは、ここ数年で日本全国各地で盛んになってきています。多くの場合は、行政の補助金、もしくは企業の寄付金頼みになっていて、お金の支援が絶たれるとプロジェクトも終わってしまったりと、持続可能な形を実現させている例は少ないように思います。

酒井さんが携わるプロジェクトは、ただの商業施設のイベントではなく、街に暮らす人たちの心に触れるような居場所づくりばかり。例えば、映画館のない荻窪の街にあるルミネ荻窪の屋上を一夜限り野外映画館にしたり、コミュニティステーション東小金井で、心が込められている手仕事や食べもの、音楽などを体験できる「家族の文化祭」を開いたり。それらは、商業施設と街の小さなお店、ビジネスと人の心、それぞれが対立することなく、共に寄り添うような場所をつくっています。

プリント

酒井さんの働き方や仕事からは、優しい未来を感じるのです。今、対極にあるようなものも、関わり方をデザインするだけで、両方が笑顔になる道があるのだと。

人と関わることは、煩わしい。けれども、人と関わるからこそ、一人だけでは決して見ることのできない景色が広がるのだと思います。そして、みんなが笑いながら同じ景色を眺めることもできるのだと、酒井さんは教えてくれました。

みんなも自分も笑い合える仕事を。優しい未来はきっと、ここから始まっています。

<完>

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