そこに「自分の個性」はあるか? これからのビジネスの紡ぎ方を語り合う――ノンスタフォークスオンライン(ゲスト:菅原健一さん)開催レポート
テクノロジーが進化したことで、D2Cブランドなど、多額な資本を必要とせずとも成立するビジネスが増えつつあります。私たちが今、コンサルティングと開発支援に特化しているECサイトのプラットフォーム「Shopify」もまさに、多様なビジネスのあり方を可能にした技術だといえるでしょう。
そんな時代に突入している今、ビジネスにおいていちばん重要な要素は何なのか——私たちは、それが「個性」や「創造性」ではないかと考えています。
私たちがご一緒しているお客さまの中には、「自分たちは何者か」という根本をしっかりと見つめ、アイデンティティを確立するところからビジネスをはじめて成功をおさめている企業が多数あります。たった数人のメンバーで、数億円の売上を立てる。そんな企業の存在も珍しくなくなりました。
それらのビジネスに共通しているのは、市場のニーズなどの外部要因を綿密に分析し、それに合わせて事業をつくるのではなく、あくまでも自分たちの意志を大切にしたうえで、偶然の出会いを重ね、事業を“紡いで”いることのように思います。
そこで今回は「自分の個性からビジネスを紡ぐ」をテーマに、菅原健一さん(通称「すがけんさん」)をゲストにお迎えし、お話をうかがいました。
目次
事業の成長を阻害しているのは何か? ビジネスのあり方を問い直す
佐藤:最近、例えば「Shopify」や「Appify」(Shopifyをモバイルアプリ化するプラットフォーム)のようなサービスがなかった時代には成立し得なかったビジネスが、いろいろと生まれています。以前は大企業でしか導入できなかったシステムが、簡単に使えるようになったことは非常に大きいですよね。
菅原:そうですね。昔はECの仕組みをすべて整えるのに、何千万円もかかるのが当たり前でしたから。
でも今は、地方にある小さく個性豊かなお店にもインターネットからアクセスできて、まさに「購入したい」という思いが高まっているときを逃さず、私たちはどこにいても商品を買うことができます。選択肢が増えて、ずいぶんと自分らしく生きられる時代になったと思います。
佐藤:今日はぜひ、おうかがいしたいと思っていたことがあるんです。すがけんさんが以前、「どうすれば10倍成長できますか?」という経営者の方からの質問に対し、「どの企業にも10倍成長できるポテンシャルはすでにあります。それを阻害する要因があるだけです」と答えていらっしゃったのが、とても印象に残っていて。
菅原:私は企業も、基本的には人間と一緒だと思っています。むやみに伸ばそうとしなくても、基本的にはすくすく育つものなのですが、大人になる——すなわち市場が飽和してしまったり、自分自身に病気が発生したりすると成長が止まってしまう。
でも何千億円も売り上げるような事業でなければ、実際に市場が飽和することなんてそうそうありません。だから大半の場合は、自社内に成長を阻害する要因があるはずなんです。
佐藤:まずはその阻害要因を見つけて、取り除くのが先決だということですね。
菅原:問題を見つける以外に、自分たちの良い部分にフォーカスして特化するのもいいですよね。市場に受け入れてもらうために何にでも手を出してしまうと、決して「らしさ」は生まれません。
ECに取り組まれている企業でとても多いのが、とにかく広く検索されるキーワードの中に何とか入り込もうと、商品の種類を増やしてしまうこと。でもそうしてしまうと、自分たちの個性はだんだんと関係なくなってしまいます。そうではなく一部の商品に特化して、その定番商品をどんどん磨き上げていく方が成長に結びつきやすくなります。
佐藤:ShopifyのCOOであるHarley Finkelstein氏も、まさに同じことをおっしゃっていました。現在、Shopifyで高収益を上げているブランドの多くが、5点以下の商品で75%以上の売上を上げているそうです。
菅原:むやみに値下げしたり他の商品を増やしたりすることによって、逆に成長が阻害されてしまうことも多々ありますからね。そうではなく、自分たちの商品をどれだけ良くしていけるかで勝負する。価値をつけて値段を上げる努力、もしくは値段に釣り合うような良質な商品にしていく努力。どちらも重要だと思います。
商品の個性は曲げずに、売り方を再定義する
佐藤:ビジネスを紡いでいくうえで、これまで以上に「個性」や「創造性」が重要になってきていると感じています。
僕たちはさまざまなクライアントさんとお仕事をご一緒していますが、最近、求める答えが必ずしも市場側にあるとは限らないと感じるようになりました。むしろクライアントさん側が、もともと「良さ」を持っていることも多いように思います。
それをどうやって引き出し、ビジネスを伸ばしていけばいいのか。すがけんさんがどのように実践されているのか、ぜひ具体的に教えてください。
菅原:福岡でレザー商品を製作・販売している「Laluce(ラルーチェ)」というブランドがあります。20代前半の男性が「レザーは経年変化するので愛着がわくから」といって男物のレザーバッグをつくっていたのですが、最初に話を聞いたときは、彼がつくりたいものと、買ってくれる人とが合っていない印象を受けました。
でも定番商品として彼がつくっていたバッグが、とても個性的でアイコニックな製品だったんです。それに加えて今の若い人たちは、大量生産・大量消費をよしとせず、一度買ったものを大切にする価値観を持っていることがわかりました。
そこで商品を変えるのではなくマーケットをもう少し広く捉え、女性にも手にとってもらえるような売り方に切り替えるよう、アドバイスをしたんです。結果的に年々順調に成長していて、今もがんばっているんですよ。
佐藤:なるほど。もともとの商品は変えずに、商品のあり方を再定義した、ということですね。すでに自分らしさが表現できているもの、個性的な部分に目を向けたうえで「誰ならばそれを買ってくれるのか」を考える。
菅原:自分がつくりたいものがあって、実際に個性的な商品ができあがったけれど、でも売り方だけがわかっていなかった。もしくは買ってくれる人が見つけられなかった。それを、僕がほんの少しお手伝いをしただけです。彼にとっても、いちばん望ましい状態に近づけることができたのではないでしょうか。
商品をとりまく環境を捉え直すと、新たな可能性が見えてくる
佐藤:ノンスタでは最近、クライアントさんがそもそも持つ「良さ」を生かした成長をデザインするために、「エフェクチュエーション(※)」の考え方をコンサルティングに取り入れようとしています。
エフェクチュエーションにはいくつかの原則があり、その中の一つに「手中の鳥(Bird in Hand)」という項目があります。外部要因から逆算して事業をつくるのではなく、自分たちのアイデンティティや周辺の環境、すでにある社内のリソースなどを組みわせて着想し、事業を紡いでいく考え方であると、私たちは捉えているんです。
※「エフェクチュエーション」:インドの経営学者であるSaras D. Sarasvathy氏が提唱した理論。優れた起業家の思考プロセスから共通項を抽出して構築されている。
菅原:なるほど。まさに先ほど、私が話したレザーブランドの事例とも近い考え方ですよね。そもそも多くの人は、ビジネスを営むにあたり、自分たちの商品を売る市場を限定的に捉えてしまう傾向があります。
例えば売りたい商品が「バラの花」なら、「バラの市場」とか「花の市場」でシェアを取ろうと考えてしまう。でもマーケットというものは、決して「バラ」や「花」などといった「もの」だけでカテゴライズされているわけではありません。
例えば「大切な人に贈るギフトの市場」や「生活を豊かにするための市場」など、人の感情で構成されている部分もたくさんあります。そこで自分たちのオリジナリティを極めて商品を磨き上げ、それをどんな感情の人に届けたらいいのかを見つめなおすことで、成長できる可能性が広がるはずです。
最も大切なのは「自分たちが本当につくりたいものは何か」問い続けること
佐藤:すがけんさんはこれからも、チャレンジする人たちを応援する活動を続けていくのでしょうか?
菅原:そうですね。今後も「Appify」などを通じて、ものづくりをする人たちをどんどん支援していきたいです。
ビジネスって、基本的な部分をしっかりおさえれば、実はそんなに難しいことではないと思うんです。しっかり商品を磨き上げて、まずは一人のお客さんに感動してもらうことからはじめれば、その波が周囲へと少しずつ広がっていきます。
ごく基本的なことではありますが、それが何よりいちばん大切なことです。
でも、せっかく個性を活かしたD2Cブランドを立ち上げたのに、よりたくさん売ろうとして広告費がかさむようになり、資金が回らなくなって結局潰れてしまった……というようなケースを耳にすることもよくあります。手軽だからといってネット広告やSNSマーケティングなどの小手先の施策に惑わされてしまい、お客さんをないがしろにしてはダメです。
みなさんはぜひ、「自分たちが本当につくりたいものは何か」を自ら問い続けながら、どんな風にすればそれをしかるべき人たちに届けられるか、考えチャレンジし続けていただきたいと思います。
イベントの動画
「nonsta folks(ノンスタフォークス)」とは
デンマークに、「フォルケホイスコーレ(直訳:人々の自由大学)」という生涯学習施設があります。試験もなく、18歳以上であれば誰でも参加可能。年齢、性別をはじめ多様なバックグラウンドを持った人たちが集い、少人数で対話を重ね、ときには共に食卓を囲みながら、自由に自分たちの学びたいことを学ぶ場所です。
私たちはこのフォルケホイスコーレにあやかった、「nonsta folks(ノンスタフォークス)」という勉強会を定期的に開催してきました。コロナ禍に入ってから一時休止していましたが、今回初の試みとして、当社が運営しているギャラリールームからオンライン配信を行いました。